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生産者の物語が、一次産業の現状を変える。──観客席からグラウンドに降りよう【前編】

生産者の物語が、一次産業の現状を変える。──観客席からグラウンドに降りよう【前編】

生産者の物語が、一次産業の現状を変える。──観客席からグラウンドに降りよう【前編】

今回お話を伺うのは、「世なおしは食なおし」をモットーに、都市と地方を駆け回る高橋博之さん。

世界初の食べもの付き情報誌である『東北食べる通信』の発行や、農家や漁師から直接旬の食材を購入できるスマホアプリ『ポケットマルシェ』のサービスを通して、生産者と消費者のつながりを世界に広げています。

高橋さんが活動を通して、世の中に伝えたいことは一体何なのか。“消費社会”を生きる現代人に向けた熱い熱いメッセージを、全2回にわたりお届けします。

高橋博之(たかはし ひろゆき)

『東北食べる通信』初代編集長、株式会社ポケットマルシェ代表、一般社団法人日本食べる通信リーグ 代表理事。1974年、岩手県花巻市生まれ。2006年、岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補し初当選し、二期務める。2011年、岩手県知事選に出馬するも次点で落選。2013年『NPO法人 東北開墾』を立ち上げる。 著書:『人口減少社会の未来学』『だから、ぼくは農家をスターにする ―「食べる通信」の挑戦』『都市と地方をかきまぜる ―「食べる通信」の奇跡』など。

第1回
生産者の物語が、一次産業の現状を変える。──観客席からグラウンドに降りよう【前編】

物が余る世の中で、問われるのは“質”

『東北食べる通信』について伺いたいのですが、生産者の方の情報が詰まった食べ物付き情報誌というコンセプトにこだわったのはなぜなのでしょう?

高橋:戦後の貧しい時代、食に求められるのは質よりも量で、腹いっぱい食べることが優先でした。でも物余りで豊かな成熟した今の世の中では、問われるのは質なんです。人生の幸福とは何か、と問われるようになったのは豊かになったからです。

人間が生きてく上で、暮らしに関わるひとつひとつの物事を丁寧に味わう、というのが時代の流れとしてあると思います。食べ物という身近なところでも、ストーリーを知った上で食べたらもっと美味しいのではないかと思っているんです。生産者が浮かばれる世界をつくることは、実は、消費者にも求めれらていることなのではないかと思います。

現代を生きる私たちが無意識に求めているのは、物よりもその背景にあるストーリーなのだ、ということですね。

高橋:例えば、最近ってアイドルのCDだけ聞くんじゃなくて、もっとストーリーを大事にしますよね。涙を流してトレーニングをして、それでもなぜアイドルになりたいかっていうことを彼女たちに語らせる。そんな姿に共感した人たちが、自分のお給料でお気に入りの子に投票をして、だんだんとセンターに近づいていって…。ファンはまるで自分が育てているかのような気になってくる。

たしかに私たちは、何かに共感すること自体を求めているのかもしれません。

生産者の人生に値段をつけること

雑誌ではなく、サイズが大きいタブロイド紙の媒体にこだわったのはどんな理由なのでしょう?

高橋:情報ってすぐに忘れられるし、紙ってすぐに捨てられますが、捨てられないものを作りたいって思ったんです。読者の中には、わざわざアイロンで伸ばしてファイリングしている人や、お店に飾ってくれている人もいます。そのお店は恵比寿のお寿司屋さんなんですが、大将が食べる通信で知り合った漁師さんを訪ねて、魚を仕入れているんです。

実際につながりが生まれているんですね。制作にあたってのこだわりはありますか?

高橋:創刊から5年間は、ずっと僕が特集書いていたのですが、“美味しい”という言葉は一度も使っていません。生産者のバックストーリーがメインで、食材はあくまで付録なので。

そのコンセプトも、高橋さんと生産者さんの信頼関係があってこそ成り立っている気がしますね。

高橋:生産者は特集を読んで、こんなにフォーカスされたことないって本当に喜んでくれます。8000字の特集って、一回会っただけじゃ書けないです。しかも生産者って疑い深い人も多くて、何回も行っていっしょに酒も飲んで、「こいつにならしゃべってもいいな」って思われないと書けないんですよね。僕は、そんな生産者の人生に値段をつけているようなもんです。だから、読者の人に「高い」なんて言わせない、というプライドを持ってつくっています。

生産者の方は、どんな想いを抱えているのでしょう。

高橋:生産者の方はみんな、食べ物をつくることがいかに大変かということを知ってほしいって思っています。一生懸命育てた作物が、台風が来て一発でアウトってことも起こる世界です。不作の悲しみ、豊作の喜びを共感できる相手がいると、張り合いがでるしモチベーションにもなります。

読者は食べ物だけでなく、生産者さんへ共感を持つことができるんですね。

思い通りにならない世界で育まれる力

高橋さんが、印象に残っている生産者さんとの出会いはありますか?

高橋:花巻の東和町で『パーマカルチャー』つまり永続的な暮らしを実践していた、酒匂さんという方に出会ったんです。日本でも最近はよく耳にするようになりましたが、そのパーマカルチャーの草分け的存在です。その方の農場を見せてもらったとき、普通だったら切ってしまうような木を切らないので、なぜかと聞くと、「無駄なものはない、すべてのものはあるべくしてある」とおっしゃって、自然の成り立ちをすべて説明してくれたんです。それを見た僕は、「これからの世の中が目指すべき姿がここに小さく実現しているな」と思ったんです。

どういうことでしょうか。

高橋:自然は、思い通りにならない世界です。今の世の中は思い通りにならない世界を隔絶していくんですよね。だけど、畜産農家は思い通りにならない牛を観察して、牛の気持ちを想像して、関わっているんですよ。そこで忍耐力、観察力、想像力、共感力が育まれるんです。それが今の世の中に足りないものなんです。自分と違う考えの人とは関わらないようにできてしまうけど、関わるってことが大事。それが人を成長させるんです。そういう考え方になった原点が、酒匂さんとの出会いでした。そこから、農家と漁師のおっかけが始まりました。

観客席からグラウンドに降りよう

生産者と消費者をつなぐことにはどんな想いがあるのでしょうか。

高橋:僕の一貫したメッセージって「観客席からグラウンドに降りよう」なんです。消費者から当事者になってほしかったんです。『食べる通信』の読者は、ただの食べる人ではなくて生産者のファンでもあり、営業マンでもあります。会社の同僚や上司に、生産者の代わりに「こんな食材があるんです」と説明ができるんです。

今の日本の社会は、食の分野でも政治の分野でもみんなそうだけど、全員がお客さん。暮らしとか世の中に対して、見物視点じゃなくてつくる側に回ったほうが楽しいと思うんですよ。僕自身もグラウンドに降りました。人間には、世の中に文句を言うか、それを変えるか、そのどっちかしかないんですよ。

で、僕はおせっかいだから、グラウンドに降りてからも観客席に向かって「降りようぜ」ってすすめたんですよ。グラウンドに降りたほうが楽しいよって体現していって、それが伝わるかどうか、そこが勝負なんだと思っています。もっと多くの人がグラウンドに降りたらもっとおもしろい世の中になると思うんです。

グラウンドに降りるにはまずどうすれば良いのでしょう。

高橋:僕自身の経験からすると、降りる場所なんてどこでもいいから降りてしまえばいいんだって思うんです。東京にいた頃は本当にいろんな仕事をしたんですが、東京って人がいっぱいいるじゃないですか、だから僕がやらなくても誰かがやるんですよ。

人が多い中で、意味のあることをしたくてずっと探していました。でも、思い通りにしようとすると苦しむことになると気がついて、途中で諦めたんです。今与えられた環境っていうのは、自分で勝ち取ってきたものであって、ご縁でいただいたものです。その中で、やりたいこと、できることを精一杯やろうと切り替えたんです。

そうすると人生の歯車がうまいこと動き始めたんですよ。そして、結果として人生がおもしろくなりました。記者を目指していた頃に磨いた文章力も、議員時代に磨いた説明能力も、東北食べる通信をやるにあたってすべてが生きてきたんです。だからグラウンドに降りてできることをやってみたら、そこが自分の居場所になるんだと思います。

▼記事中に紹介した媒体・サービス
『東北食べる通信』
『ポケットマルシェ』

第1回
生産者の物語が、一次産業の現状を変える。──観客席からグラウンドに降りよう【前編】