オープンソースのプログラミング言語Rubyの開発者「まつもとゆきひろ」氏と関わりが深く、“Ruby City Matsue”としてその名を知られる島根県松江市。ここには日本中から多くのエンジニアが集まります。
そんな松江市で、Rubyを使った開発の仕事をしている「株式会社モンスター・ラボ」 テクノロジストの山口友洋さん。島根開発拠点責任者も務める彼に、島根に来て感じた仕事への取り組み方、そしてライフスタイルのお話などをお聞きしました。
山口友洋さん
株式会社モンスター・ラボ 島根開発拠点責任者/テクノロジスト
【島根県松江市】
総人口:204,285人(2017年1月末現在)・・・松江市(まつえし)は、島根県の東部(出雲地方)に位置する市。島根県の県庁所在地である。2012年(平成24年)4月1日に特例市に移行した。また、2018年(平成30年)4月1日の中核市の移行を目指す。就業人口の内訳は第1次産業 約4%・第2次産業 約19%・第3次産業 73%(2010年現在) 参考:島根県松江市ホームページ
デメリットなし?島根に来て変わったワークスタイル
▲松江駅を少し離れるとのどかな風景が広がる松江市
——山口さんは島根のご出身なのですか?
山口友洋さん(以下、山口):いえ、僕は仙台出身です。モンスター・ラボに入社し、しばらくは東京で仕事をしていたのですが、2011年の東日本大震災のあとに熊本に移住していました。
——島根の前に熊本にいらっしゃったんですね。熊本にはどのくらいいたのでしょう?
山口:2年間ほどいました。モンスター・ラボの社員のまま、在宅でリモートワークをしていましたね。
——そうだったんですね!そこからなぜ島根に?
山口:2013年の11月に開催された『RubyWorld Conference』で島根を訪れ、松江の街並みや自然を見たり、行政の方のお話を聞いたりする中で、ITエンジニアが働くのにとても良い環境だと感じました。「僕も島根で仕事がしたい」という思いが生まれて。そこからIターンをしたという経緯ですね。
——短時間の視察で、そこまで魅了されるって凄いですね!
山口:松江市はプログラミング言語Rubyを軸にした街づくりに長い期間取り組んでおり、僕自身もエンジニアとして成長できるという思いもありましたし、次のステップとして開発拠点の立ち上げに関わりたいという思いもありました。ちなみに開発拠点にいる4人は全員Iターンですよ!
——そうなんですか!(仕事中の社員さんの方を向く)
山口:そうだよね?
御供:おっと!はい(笑)僕もRubyの仕事ができるということに魅力を感じて、松江にIターンしました。僕は自転車通勤なんですが、松江の自然が心地よくて、毎朝本当に爽快です(笑)最先端のRubyが学べるという点でもすごく気に入っていますね。
▲急遽お話に参加してくださった御供さん。お仕事中ありがとうございました!
——さすがRubyのまち松江!モンスター・ラボ開発拠点についてお聞かせいただけますか?
山口:開発拠点自体は中国やベトナムにもあります。ただ、日本は今後人口が減り生産力がどんどん落ちていきますよね。そんな中で、エンジニアが新しい働きかたを実践し、日本国内からより良いサービスを生み出していけるように、という思いがあって島根開発拠点はできました。オープンソースの「Ruby」を使った開発をメインに行ってます。
▲2016年10月現在のオフィスは「松江オープンソースラボ」にあります。Ruby開発者のまつもとさんの掛け軸も!
——そうなんですね。実際に島根に移住してみてどうでしたか?
山口:わかりやすい利点で言うと、何よりも通勤時間が短くなった(笑)僕はバス通勤なんですが、徒歩や自転車で通勤している社員もいて、横目に流れていく松江城と、城下町の情緒ある景色がすごく綺麗なんですよ。移住してきた社員たちも、今まで憂鬱だった通勤時間がすごくリフレッシュできる時間になったそうです。
——私たちも通りがけに松江の景色を見てきましたが、すごく綺麗でした。
山口:松江城や大根島という島、お寺で仕事をしたこともあるんですよ。以前は美保関という漁港の民宿で開発合宿をしました。
——漁港ですか!?︎(笑)
山口:インターネットの繋がるところなら、どこでも出かけていきますね。その時期に気持ちの良いところや、情報収集をして「こんなところがある」という情報を掴んだら、フットワーク軽く出かけちゃいますね(笑)
——羨ましい〜!東京とはだいぶ違った働き方ですね。
山口:職場の環境的にはそうかもしれません。ただ、仕事内容は全く変わってないんですよ。「島根だから最先端の仕事ができていない」ということは全くないので、最先端の東京と同じレベルの仕事を、自然豊かな島根で行っているという感じですね。
——ちなみに、サテライトオフィスで仕事をしていて感じたデメリットは何かありますか?
山口:………。
——………。
山口:全く思いつきません。。。ないんですね(笑)
——(笑)
東京は仕事の場所だった。島根に来て感じたこと
▲モンスター・ラボの社員さんが通勤時に使っている自転車。これで島根の美しい景色を見ながら通勤されているそうです。
——島根に移住を決めた際、ご家族の反応はどうでしたか?
山口:妻は最初、知らない土地で友達ができるか不安だったみたいです。ただ、実際にここで生活を始めて、島根でやっているさまざまなコミュニティに参加するうちに仲間も増え、今では自分でイベントを企画するまでになりましたね。
——ええ!それはすごい!
山口:驚きですよね。僕は3歳になる子どもがいるんですが、子育て環境もすごくいいんです。外遊びがたくさんできますし、待機児童も都会より少ないそうです。すぐそこに自然があるというのは、すごく子育てがしやすいですね。東京にいた頃に比べて家族と過ごす時間が増えたので、スキを見つけては近くの宍道湖や海に出かけています。
▲ご家族の話に顔がほころぶ山口さん。とてもご家族思いなのが伝わってきます。
——山口さんご自身、移住を経て変わったことは何かありますか?
山口:東京にいたときは“仕事と家庭”がものすごくはっきり別れてたんですよ。遠いオフィスまで朝早い電車で出勤し、終電に近い時間で帰ることもある。その時間は家族を犠牲にして仕事をしなければいけないというか。
——うんうん、よく分かります。
山口:地方だとその差を埋められるんですよ。朝「あ、お弁当忘れた」と思ってもすぐに届けてもらえたり(笑)飲み会も家族ぐるみでやっていますし、地域のお祭りに社員みんなで出かけたり。すごく「仕事」と「家庭や地域」の距離が近いんです。
——仕事以外のコミュニティの部分ですね。
山口:僕自身も、積極的にいろいろな人と関わりたいという意識が芽生えましたし、会社のコミュニティだけにとどまらず、地域の方や今まで関わりのない職業の方など、多くの人と知り合えたらすごく面白いなと。
——なるほど。出会いが楽しさに繋がってるんですね!
山口:島根に来て強く感じたのは、“東京は仕事のため行く場所だった”ということです。今は「仕事」だけでなく「家庭や地域」との距離が近くなり、密接につながっているという感じですね。島根には、IT企業の誘致や、エンジニアの支援に、目覚ましい活躍をしている自治体公務員の方がたくさんいます。そういう人たちのバックアップがなければ、なかなかこの働き方はできなかったな、と感じています。
▼島根県が行なっている移住者支援の取り組み一部
◉就業体験者支援制度
求職活動のために就業体験(インターンシップ等)を行う場合に、1か月あたり最大18万円を助成(家族同伴の場合は3万円を加算)
◉UIターン企業体験支援事業
面接や会社訪問などで島根に来県する際の交通費(片道分)を助成
◉開発ソフトウェア・サービス販路拡大支援事業
県内に開発ソフトウェアの技術開発拠点を有する県内企業で、開発ソフトウェアを有している場合、対象経費の1/2以内を補助。
◉Matsue.rb(松江Ruby)
県内の若手エンジニアを中心としたRuby勉強会を月1回開催している。
島根をより魅力のある場所にするために。自分なりのミッションを持った方と繋がりたい
——オフィスを移転されるとのことですが、次のオフィスはどんな場所なんですか?
山口:次のオフィスは、築90年以上の古い趣きのある近代建築「出雲ビル」の2階です。島根開発拠点をさらに大きく、また採用に力を入れていくためにも移転をしようかなと。改修は松江の設計士さんにお願いしていて、建物の良さを引き立てるような素敵なオフィスになる予定ですね。(※取材時である2016年10月の情報です。)
▲取材後、山口さんにご提供いただいた「出雲ビル」。歴史を感じさせ、趣の残る素敵なビルです!
——すごく楽しみですね!山口さんは採用担当もされているということですが、今後どういった人と一緒に働きたいですか?
山口:一緒に仕事をする以上スキルはもちろん大事ですが、しかしそれ以上に「自分のやりたいこと、やらなければいけないことといった、自分の目的やミッションをしっかり持っている方」がいいですね。
——自分なりのミッションですか。
山口:自分でミッションを見つけて取り組める方なら、新しい環境でも、やりがいのある仕事やコミュニティ活動に取り組んだり、島根の美しい自然や歴史に触れるなど、色々なものを自分で見つけていけると思います。そういう方であれば、島根はより魅力的な場所になりますよね。
——なるほど。山口さんのミッションについてもお聞きしたいです!
山口:僕にとってのミッションは、ここ島根を、未来の人にとってより魅力のある場所にすること。「島根で仕事がしたい」「島根はすごく魅力的」とより多くの方に思ってもらえるように、まずは開発拠点での採用も増やしていきたいです。地方で働くというのは新しいことに挑戦できるチャンス。ここ島根で、たくさんの仲間と一緒に最先端の仕事を行なっていきたいですね。
——最後に、山口さんにとって島根はどんな場所ですか?
山口:地域と仕事とが密接に関わる働き方ができる場所、そしてエンジニアがより高い目標に向かうことができる場所です。エンジニアなら、仕事の内容は東京と同じことができるので「地方だから成長できない」という理由で、移住を諦めて欲しくないですね。
——ありがとうございました!
【編集後記】
私たちは心のどこかに、「地方にいては新しい仕事ができない」「地方から何か新しいものを生み出すなんて難しい…」という気持ちがありませんか?
少なくとも私自身はそう感じていました。出身地である秋田が大好きなのにも関わらず、「田舎からは何も生み出せない」「秋田で魅力的な仕事をするのは難しい」と感じて関東に出てきました。
しかし山口さんのお話を聞いて感じたのは、その考えはもう古く、努力次第でどんどんアップデートしていけるということ。その地をより魅力的な場所にするために、自分なりのミッションに挑戦し続ける山口さんの姿に学ばせて頂く部分がとてもたくさんありました!
その地域だからこそできること、誇りを持てることを追求していくことが、これから日本全体を盛り上げていくことに繋がるのかもしれませんね。とても貴重なお話でした。