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人生100年時代。学び続けていかに「手札」を手元に増やすか ── 経産省 伊藤参事官

人生100年時代。学び続けていかに「手札」を手元に増やすか ── 経産省 伊藤参事官

人生100年時代。学び続けていかに「手札」を手元に増やすか ── 経産省 伊藤参事官

前編の『働き方改革のキーワードは「生産性向上」 戦略的に不要なことをやめていく』では、働き方改革の概要や目的、生産性向上の大切さなどのお話を伺いました。伊藤参事官は、働く人の選択肢が拡大するからこそ、学び続けてスキルを向上させることが大切だと話します。後編では、その点について深く掘り下げて伺っていきます。

伊藤 禎則(いとう さだのり)

経済産業省 産業人材政策担当参事官 1994年通産省(当時)入省。東京大学法学部卒、米国コロンビア大学ロースクール修士、NY州弁護士。これまでエネルギー政策、成長戦略等を担当。筑波大学客員教授、大臣秘書官を経て、2015年10月より現職にて、働き方改革、副業・兼業促進、IT人材育成、経営人材育成など人材・労働関係政策を広く担当。

人間は人間ができることに集中する

働き方改革は現在、第2章にあるというお話を伺いました。こちらはどれくらいの期間継続すると思われますか?また、その後はどうなっていくと思われますか?

伊藤参事官(以下、伊藤):「働き方改革第2章」のテーマである「生産性の向上」は、ある意味で日本経済の成長の本丸です。今後も長く続いていくでしょう。そして、生産性を上げていく過程の中で、「働く喜び」のようなものに注目が集まると思っています。

また、時代に逆行するように聞こえるかもしれませんが、企業理念や経営理念といったマインド部分の必要性が高まると思っています。働き方が多様化すると言うことは、フリーランスやテレワークをする社員など、オフィスにすらいない人間が増えることになる。でも企業だからバラバラでは困ります。そういった時代の中で人を繫ぎ止めるのが経営理念だと言えます。

第3章にテーマをつけるとしたら何とつけられますか?

伊藤:「ポスト生産性」でしょうか。これからAIが台頭し、人間の仕事を機械が代わりにやるようになってくる。でも仕事が奪われるという風にネガティブに考えるのは間違いです。「ロボット」という言葉の語源はチェコ語だそうですが、もとは「強制された労働」を指すそうです。自分がやらなくてもいい仕事、文字通り強制された労働は機械にやってもらい、人間は得意なこと、人間にしかできないことに集中する。生産性向上の部分でもお話しましたが、得意なことに集中できるチャンスでもあるのです。

22歳までの知識はいつまでも通用しない

そうですね。これからはAIを使いこなす側になる必要がありそうですね!

伊藤:その通りです。今自分がやっている仕事は「強制された労働」ではないかどうかを胸に手を当ててぜひ考えてみてください。時には自分の仕事について振り返ることも大切です。そして今後はますますクリエイティビティが重要になります。

そこで経産省では、人づくり革命と人材投資が必要と判断し、研究会をスタートしました。リンダ・グラットンさんの著書『LIFE SHIFT〜人生100年時代の人生戦略〜』の通り、健康な状態で長く働ける社会では、「学ぶ」ことと「働く」ことは一体化していきます。

大学卒業後の22歳で就職してから80歳まで働く場合、半世紀以上を費やすことになります。新卒入社した会社でずっと働くのは現実的ではなく、実際には複数の企業に所属していくようになります。特定の会社だけで通用するスキルではなく、汎用性があるものを身につけることが重要です。22歳までの知識をずっと使い続けるのは無理がありますよね。だからこそ常に学び続けないといけないんです。

ここで重要なのが「リカレント教育(教育と労働を交互に行うこと)」です。社会に入ってからが教育の本番という考えで、どういうことを学び、どんなスキルを身につけるかを考えていきます。

確かに学び続けることは重要ですね。古い知識はいつまでも通用しません。でも現在の日本社会では、社会人が働きながら学ぶことのハードルが高い気がします。その理由にはどのようなことが考えられますか?

伊藤: 「時間がない」「お金がない」「何を学べばいいかわからない」の3つだと思っています。時間については、職場は長時間労働是正に動いています。お金については、企業でも人材投資にお金を使うほか、今後は国も現在就業中の人への職業訓練にお金を出していく方向に向かっています。

一番本質的なのは「何を学ぶのか」でしょう。例えば「3か月休みをあげます。給料もあげますと言われたら何を勉強しますか?」と問われて即答できるでしょうか。多くの人が、今後の人生の中で自分が何を学べばいいかわからないんです。

それでは、どのようにすればよいのでしょうか?

伊藤:例えば、副業そのものが学びになることもあると思います。ひとつの切り口として、大企業で活躍しきれていない40代、50代の人が、中堅・中小企業で働いて活躍するというものがあります。産業政策の担当者として実感することが、日本の成長を阻害する最大の要因が今や人手不足であることです。

実際、どの業界でも中小企業でも人手不足に苦しんでいるんです。もし可能なら、大企業で埋もれている人が、出向でも、副業でも、中小企業やベンチャー企業に転じて活躍してはどうか。日本経済の相当な伸びしろになると思います。

「レアな手札」をどう増やすか

経済産業省・伊藤禎則への取材時の様子

学びは大切ですが、やはりお金はかかると思います。以前、伊藤さんは「生産性を向上させるためには教育と人材投資」とおっしゃっていましたが、中小企業やベンチャー企業では潤沢な資金がありません。そうした企業ではどのようにすればよいのでしょうか。

伊藤:まず申し上げたいのは学びのコストは過去と比較して劇的に下がっていることです。オンライン、e-ラーニングなら低コストで学べます。中小企業だから、ベンチャーだからなど、企業規模は関係ないと思います。

一方で、働く人に実地的な学びの場を与えることも大切です。私は、約200社に及ぶ調査から「修羅場」体験こそが何よりの学びだととらえていて、それらは大企業よりも中小企業の方がはるかに機会が多い。ベンチャー企業や中小企業は、胸を張っていいと思うんです。不足した部分は、コストが安いeラーニング等も活用して学習するというやり方が有効だと思います。

働くことやキャリア構築への考え方も変わってきそうですね。

伊藤:人材の流動化が進み、新卒入社した会社でずっと働くことは珍しくなってきました。自分のキャリアをどう築いていくか、「キャリアオーナーシップ」という言葉を使っていますが、この考えは必要になってきます。

キャリア構築の際、かつては「キャリアラダー(下位職から上位職へキャリアを積み上げる)」の考えが強かった。でも現在は違っていて、自分の座標軸をいかに持つかが大切。2017年5月に経産省の若手職員が出した「不安な個人、立ちすくむ国家」では、昔のキャリア観を「昭和の人生すごろく」と表現していますが、今はすごろくより『ポケモンGO』なんですよ(笑) 

決められた「すごろく」を進んで「上がり」ではなく、『ポケモンGO』のように様々な世界へ自ら行く感じです。そして、行く先々で色々なポケモンをゲットする。いかにレアなポケモンを入手できるか、つまり自分だけが持ち得るようなスキルや「手札」をどれだけ持てるかが大切。それゆえに継続した学びが重要なのです。

伊藤参事官、お忙しい中詳しく教えていただきありがとうございました。

編集後記

いまや終身雇用制度は崩れ、様々な職種を副業で経験したり、自分のスキルをもっと活かせるような場所へ転職したりするなど、多様な働き方が主流の時代へと変わっていくのを身をもって実感しています。

同時に、いまあるたくさんの仕事が今後AI化されゆく流れもあり、ここで極めて重要なのが個人の自己分析力だと思いました。自分自身が何が好きで何が得意なのか、また何を苦手としているのか。まずはそれらを一人ひとりが自分に問い、答えを見つけることが働き方改革の第一歩だと感じました。

執筆:そのべゆういち(@prepapayuyu
企画・編集:たくみこうたろう(@kotaro53