前編では、 元マイクロソフト業務執行役員でクロスリバーの代表を務められている越川慎司さんに、ギグエコノミーという人材活用のやり方や、週休3日で働くことへの想いについてお話を伺いました。
後編では、変化が激しい現代に個人ができることを取り上げます。新卒一括採用や終身雇用など、日本型の雇用モデルは崩れつつあります。よく「人生100年時代」と言われますね。私たちは過去よりも長く働くことを前提とした生き方にシフトしなければいけません。
その時代においては、自分のスキルをいかにアップデートし続けられるかが何よりも大切です。越川さんにズバリ伺いました!
越川 慎司(こしかわ しんじ)
国内通信会社、外資通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。Officeビジネスの責任者を務めた後、働き方改革の支援会社クロスリバーを設立。2017年は全てのクライアント企業で事業生産性・労働生産性、そして従業員の働きがいが向上した。 著書『新しい働き方~幸せと成果を両立するモダンワークスタイルのすすめ~』(講談社)は、TSUTAYAオンラインで全書籍中トップの週間売上げを記録しベストセラーに。
変化に対応するには、変化に気が付く仕組みづくりが必要
前編では、 ギグエコノミーという人材活用のやり方によって、様々な人が持つ多様なスキルを組み合わせてチーム力で仕事をすることについてお話を伺いました。働き方が変わる時代において、個人がすべきことは何だと思いますか?
越川慎司(以下、越川): 働き方改革と聞くと、単に労働時間を短くすればいいと思う人は多いのですが、それだけやると会社の売り上げも社員のモチベーションも落ちます。時短の前に業務を棚卸することが必要なのです。「生産性が高く残すべき業務」と「生産性が低く他で代替できる業務」との二つに分け、後者にかける時間を圧縮していくのです。
何でもかんでも減らしてはダメです。たとえばですが、数億円規模のビジネスが決まるかもしれないプレゼン前日に「早く帰ってください」は適切な対応とは言えないでしょうね。大事なのは「質」であり、「労働時間が短いこと」じゃないんですよ。
生産性が低い業務を減らして生まれた時間を使って、興味がある内容を扱うセミナーへの参加するなどスキル磨きをするのも有効です。今後もスキルのアンバンドル(細分化)が進み、ちょっとしたスキルが市場で売買され、副業にもつながりますから。
会社の意向に従うだけではなく、自発的に力をつけていく気持ちは必要ですね。これからの時代は、自分から貪欲にスキルを身につけていかないと、年齢を重ねた時に必要とされなくなるリスクがあります。
自分のスキル磨きの際に、副業はうってつけな気がします!
越川:そうですね。副業の効果は、自分が持つスキルの市場価値を客観的に見られることです。 時間生産性を上げるにはどうしたらいいのか、世の中からどういう価値が求められていて、 どんなスキルを身につければ自分の目標を実現するのかなどを考えるきっかけにもなりますから。もし僕が会社員をしながら副業をするなら、給料の良し悪しではなく、人脈が広げられるところを選ぶでしょうね。
いま、ネット上には自分のスキルを時間単位で売るようなサービスがあります。ビザスクなどがそれにあたりますね。そういうサイトに登録すると、自分の市場価値がより明確にわかりますよ。すると、自分の価値をさらに高めるにはどうすればいいかを考え始める。若い人は積極的に副業した方がいいと思いますね。
時代の変化に取り残されることなく、必要とされる人材でい続けるには、どんなことに気をつければいいのでしょうか?
越川:変化に追いつくためには、そもそも周りが変化していることに気がつかないと始まりません。社内の仕事ばかりしていると、外で起こっていることに対して鈍感になりがちなので、いかに社外の人と触れ合う場を意識的に設けられるかは大切ですね。
社外の人と接するときには、違う年代、違う性別、違う会社など、できるだけ自分とは異なる属性の人を選んでください。インターネットで検索すればたいていの情報を得られますが、そのような情報は誰でも入手できるので、さほど価値は高くないですよ。
やっぱり重要な情報は、人に紐づいていることが多いので、直接人に会うことが必要かなと。僕は週休3日ですが、休みの日は人に会いに行くことが多いです。喫茶店でコーヒーを一緒に飲むだけでもいいんですよ。ネットで検索すれば様々な情報を瞬時に入手できる時代だからこそ、人に会って直接情報を得ることの大切さが増しているんです。
1日の行動を可視化して、不要なことをやめていく
気になるのが「週休3日」の働き方です。働く時間は短い方がいいのは誰しも思うことですが、どうやったら実現できると思いますか?
越川: 時間をいかに管理するかを意識しましょう。どんな人にも24時間しかないんです。そのために、僕は1日の行動のすべてをアプリを使って可視化しています。ここ(取材場所)への移動時間も記録していますよ。無駄なことをせず楽をしたいから。
僕の行動に対する時間当たりの生産性や、日々の時間単価を見るように意識しています。働く時間が短くなる、働く時間に制限をかけるというのは工夫がいるんです。まあ、今はそれがちょっときつくはあるのですが(笑) そうそう、時間の管理には、「タイムリー」というアプリを使っています。これですね。
おお、さっそくチェックしてみます!まるで、時間の家計簿をつけるという感覚ですね。
越川:その通りです!ダイエットをする時、体重計に乗らない人はいませんよね。僕は時間のダイエットをしたいので体重測定として、自分の行動を記録しているんです。「週休3日をコミットする」。ライザップ方式ですよ(笑)
あとは、僕が以前いたマイクロソフトの製品「My Analytics」も使いますね。そうしたツールを活用して、PDCAをしっかり回すことが大切かなと。時間を生産的に使えるように、無駄な作業をなくしていくことが僕のミッションです。
「やりたいこと」「できること」をたくさんできる環境をつくる
Fledgeには20代の読者もたくさんいます。 越川さんが現在入社3年目ぐらいの若手社員だったとしたら、どんな働き方をしますか?
越川:うーん、僕だったら入社から3年間でやった仕事の棚卸をしますね。その際には、「会社が求めていること」(やらなければいけないこと)、「自分ができること」「自分がやりたいこと」という3つの円をイメージするようにします。
その円の中で大きくすべきものは、間違いなく「できること」と「やりたいこと」でしょう。「やらなければいけないこと」の割合が大きいと、働くことの満足感が得られにくくなります。
とはいえ、若いうちからいきなり「自分のやりたいこと」をたくさんやるのは難しいと思うので、どうやったら「できること」と「やりたいこと」を多くできるかを考え、スキルを磨いていくと思いますよ。
自分のキャリアパスを意識するのは大切ですね!最後に、会社員が働き方改革を効果的に行うためのアドバイスをお願いします。
越川:なぜ働くのかを明確にしましょう。この際に、目的と手段を混同してはダメですよ。立ち止まって考えるための時間を設けることも有効ですね。日々の仕事に忙殺されていたら、今自分がやっていることを棚卸しできませんから。
あとは、まず行動に移してみてほしいです。副業でもいいし、勉強でもいい。会社の中でやっている自分の作業を工夫してもいい。とにかく行動することが大事です。
意識を変えて行動するのではなく、行動して意識を変えるのです。意識が変わるのを待ってたら何もできないです。行動したことによって学びがあり、その学びによって行動すると意識と結果が変化し、その変化を振り返って、さらに次の変化につなげてみる。このような非常にシンプルな PDCA を回すだけで、働くことへの意識が変わってきますよ。
編集後記
かつては、個人の生き方は企業が決めてきた面がありました。働く人からしても、会社からの指示に従い続ければ雇用が守られてきたので、一度就職したらキャリア自立する気持ちは育ちにくかったんですね
でも変化が激しい時代、働く人は「なぜ働くのか」と目的をよく考え、人生のあり方を決めなければいけません。会社になんでもお任せではダメなんです。
たえず外にアンテナを向けながら、変化に飲み込まれないように自分の力をつけていく。そんな自発的かつ前向きな姿勢が、今を働く人に必要なんですね。「目標の設定→行動→振り返り→行動」というサイクルの大切さが心に響いた取材でした。