「子育てをしながら働く」って大変!そう思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
子育てと仕事を両立できるよう企業や行政が制度を整え始めているとはいえ、両立させるにはまだまだ個々の努力が必要です。
私はまだ出産や育児を想像ができませんが、社内で子育てをしながら働いている人を見ると子どもの体調で仕事のスケジュールを変えたり、自由に動けなかったり、大変そうだな…と思うことがよくあります。
今回の『働き方カンファレンス #1 理想のライフスタイルを実現する働き方デザイン』では、家族のフェーズや夫婦のあり方が異なる5人の登壇者から家庭と仕事の本音が語られました。
自分のやりたいことを仕事としてやり続けるためには、環境はもちろん、ときには経済面にも変化が起きてしまいます。そういった仕事と家庭と自己実現のバランスを登壇者の方々はどう両立させてきたのでしょうか?
「逃げ恥に見る結婚の経済学」からわかる今の結婚と子育てのリアル
是枝 俊悟(これえだ しゅんご)
ミクロエコノミスト。民間シンクタンクにて税・社会保障制度の改正による経済や家計への影響などの調査・分析を行う傍ら、ライフワークとして女性と男性の働き方や子育てへの関わり方についての情報発信も行っている。1児の父。
是枝:「逃げ恥に見る結婚の経済学」のエッセンスを紹介します。まずこちらの将来像シミュレーションをご覧ください。
平匡のお給料は平均より高いですが、みくりがずっと専業主婦だと家計が成り立たなくなるかもしれないということを描いています。
平匡の収入が45歳で頭打ち、生活費を払いきれないという状況になり、みくりは平匡が死んだあと老後のお金が足りなくなってしまいます。
こちらはみくりが正社員として働いた場合のシュミレーション。
育児が大変なときに平匡が6ヶ月間育休を取りその後も残業なしで働くなどしても平匡の収入が2割減ります。ですが、みくりが働くことで老後には6,000〜7,000万円の退職金を得られることなります。
つまり、女性が働き続けた方が最終的な貯金は増えるんです。加えて、子どもが生まれたあとにそれぞれがセカンドキャリアを始めるなど、新たなことにチャレンジしやすいというメリットもあります。
少し視点を変えて、国の制度を見てみましょう。日本の制度は専業主婦が優遇されていません。共働きなら育児にかかるコストの一部を政府が負担してくれますし、育休産休中に賃金の3分の2をもらえたり、保育サービスを安く受けられたりとメリットが多くあります。
また、ひとりで800万円稼ぐよりもふたりで800万円稼いだ方が税金が安く済みます。個人単位で見て高収入の人に税金がかかるような制度になっているので、分かれている方が税制上有利になるんです。
ただイレギュラーなケースが起きた場合、例えば転勤が必要になったとき、大きな仕事がまわってきたとき、大きな病気や大きな障害を抱えてしまったときや特別なケアが必要になったときなどは共働きだと柔軟に動きにくくなってしまいます。
家庭と仕事のバランスをどのようにとっていけばよいのか、この時間で一緒に考えられればいいなと思います。
家庭と仕事のバランスの秘訣は、価値観の共有と将来を想定すること
金沢 慎太郎(かなざわ しんたろう)
エッグフォワード株式会社 組織・人材コンサルタント&新規事業開発責任者。株式会社ワークスアプリケーションズにて「働きがい事業」の立ち上げを経験。退職後、2017年より株式会社に勤務。人材・組織コンサル、及び、『人のつながり』に関する新規事業開発に従事。プライベートでは『パパ未来会議』にも参画し『かっこいいパパ』を発信している。1児の父。
金沢:奥さんが現在育休中なので、今はバランスを取ることにそこまで課題に感じてはいないですね。ただ土日にどちらが面倒を見るかは話し合っていて、そのときに価値観の共有を大切にしています。
例えば、リソースを使ってこのようなイベントに出ることによって将来的に家庭に何がもたされるか、このイベントであれば人脈が得られるので、将来の仕事につながるかもしれないといった感じですね。奥さんに「家庭のことをちゃんと考えてくれているんだ」と思ってもらうようにしています。
是枝:自分は結構ぎりぎりですね。日々調整をしていて、仕事のミーティングが水曜と木曜とどちらでもいいときは妻のカレンダーを見て予定が入っていない方に入れたりするなどしています。
▲会場全体の様子
愛宕:小さいお子さまがいらっしゃるとやはりそうなりますよね…。ちなみに何歳くらいまで特に手がかかりましたか?
秋庭 麻衣(あきば まい)
株式会社LIFULL FaM 代表取締役 。株式会社ネクスト(現LIFULL)に新卒で入社し、社会人1年目で社内第1号となる産休・育休を取得し、復職後に経営陣に自ら新たな子育て支援施策を提案し、社内制度を立案。「仕事と子育ての両立で直面する問題を解決したい」とネクストから100%出資を受けて「株式会社LIFULL FaM」を設立。
秋庭:私の場合は小学校低学年まででしたね。小学校低学年までは学童に入れていたのですが、その後塾に入れてからは楽になりました。塾に行かせると帰宅が夜遅くなるので。
私が起業したとき娘が6年生だったので、夜私は仕事、娘は受験勉強をして、一緒に頑張ろうという感じになっていましたね。
夫婦のバランスに関しては失敗してしまって、娘が小学校2年生のときに離婚しました。育休から復帰したあとは夫と家事育児を分担すればよかったんですが、「職場に復帰するっていっても16時に帰れるし、今と変わらないんでしょ?」と思われていて、そのまま自分がなんとなく育児や家事を全部やることになってしまったんですよね。
時短であっても働きながら家事をするのが大変だということにやってみて気づきました。それで気付いてから夫にお願いしても、彼も忙しい時期だったのでやってもらえず…不安がたまっていき、話しても無駄ってなってしまいましたね。
育休が終わる前にきちんと役割分担を明確にしておく、意識を切り替えるのが大切だと思います。
坪谷 邦生(つぼたに くにお)
株式会社アカツキ 組織・人事グループ 人事企画室WIZ 室長。モバイルゲーム事業などを行う株式会社アカツキにて人事企画室WIZ室長として勤務。株式会社リクルートマネジメントソリューションズにて、人事コンサルタントとして50社以上の人事制度構築・組織開発支援に携わった後、株式会社アカツキにて人事企画室を立ち上げ。高校1年生と中学1年生の子どもがいる。妻は専業主婦。家事や育児のことは奥さんに任せる典型的な昭和のお父さん。
坪谷:大事なことはみなさんと一緒だなと思います。将来を想定して価値観を共有しておくこと。自分は18歳で今の奥さんと付き合ってすぐに結婚しようと決め、ふたりでどういう関係にしたいか話し合いました。そのときから妻は専業主婦になりたいと言っていたし、私は仕事をして家庭を支える『昭和の父』的な役割を担いたかったんですよね。そこでちょうどはまったのがよかったんだと思います。
他には介護をどうするかなど、できる限りさまざまな場合を想定をしました。想定したことはうまくいったんですが、想定していかなかったことは大変で。その想定外というのが「転勤」でした。
愛宕:経済的に不利かもしれないけど専業主婦になりたい女性もいるし、逆にバリバリ働きたい人もいるし、組み合わせの問題なのかなと思うのですが、岡村さんはいかがですか?
岡村 雅信(おかむら まさのぶ)
ダイヤモンドメディア株式会社 取締役
不動産テクノロジーカンパニー、ダイヤモンドメディア株式会社取締役。創業から10年間以上ホラクラシー経営を続けている。エンジニアの彼女と同棲している。
岡村:自分の生活は仕事一色なので、同じように仕事が好きな人じゃないと合わなくて。ペアーズで仕事が好きな人としかマッチングしないようにフィルタリングをして、今の彼女と出会いました。なので大前提の価値観はずれていないですね。
ふたりともずっと仕事をしているので、彼女のお母さんに家事を手伝ってもらっています。帰宅したらごはんができていて、洗濯物がたたんであってという感じです。お金で解決できるのであればそれで解決するのはありだなと思っていて、そこの価値観も同じなので助かっていますね。
企業を見極めるために重要なのは制度ではない?
愛宕:そういう仕事と家庭のバランスが取りやすい働き方を考えている会社の見極め方はありますか?秋庭さんのLIFULL FaMではどうされているんですか?
秋庭:業務委託、契約社員、正社員など契約形態を選べるようにしています。本人の希望と会社の人員計画で決まりますが、週2〜3日だけ出勤する人、子どもが幼稚園に行っている時間だけ出勤する人、基本は在宅でミーティングだけオフィスに来る人もいます。
▲LIFULL FaMの制度を話す秋庭さん
今の社会全体の課題は子育てと両立して4、5時間だけ働くとなると、スーパーのレジ打ちやパン屋さんなどの仕事が多くなり、今までのキャリアを活かせず今後のキャリアをつくりにくいことだなと思っています。
柔軟な働き方となるとWeb系、マーケティング系の仕事が多くなるので、物件入力業務から始めSNSの運用、ネット広告の運用、そしてプロモーションの企画など、業務の幅を広げられるようにしています。今は特にSNSの運用、Instagramの案件ではママさんが活躍していますね。
岡村:ダイアモンドメディアもLIFULL FaMさんと同じように契約形態が様々というのもありますし、正社員でも働く時間を縛っていないです。なので、育休が終わって復帰したあとに、お子さんを迎えるために15時に退社して寝かせたら再開したりという働き方をしている人もいます。
本人がどう働きたいかはもちろんですが、会社がその人にどういう働き方を求めているかを合わせるのが大切だなと思います。例えば、新規事業をやりたい人が家庭を両立をしたいとなると難しかったりしますよね。
仮に会社がそういった募集をしていても結果的にお互いにストレスになりますし。とはいえ入ってやってみないとわからないという部分も大きいと感じています。
秋庭:以前新卒採用やっていたときに、仕事と家庭のバランスとりたいんですけどどういう規則がありますか?育休とれますか?って聞いてくる女子学生が多かったんです。
私はその質問はあまり意味がないと思っていて、目に見える福利厚生の制度ではなくちゃんと社員が発信できて一緒に制度をつくっていける風土があるかどうかのほうが重要だよという話をしていました。
子育てに限らず介護の問題がでてきたりと、年を重ねていくことで色々な問題が生まれてくるので、社員がちゃんと成果を出すために制度を柔軟に変える企業かという視点が重要だと思っています。
夫婦お互いにやりたいことをやる、収入と自己実現と家庭のバランスのとり方
金沢:個人的な考え方なんですけど、収入と自己実現のバランスは基本的にとれないと思ってます。3年くらいキャリアを積まないとお金にならないので、やりたいことを副業から始めてみるのがいいかなと。
経験やスキルが得られキャリアをつめたら本業にして、できなかったら副業として続けるのかどうかの判断をした方がいいと思っています。
愛宕:そうすると、企業が副業を受け入れてくれるかも重要になりますね。
岡村:働く・休む時間は自由で、ちゃんと仕事をやる、成果を出すというところでコミットできていればいいのではと思っています。定時を決められてしまうと他の時間でしかやりたいことができなくなってしまうので。
愛宕:みなさんは夫婦お互いにやりたいことを仕事でできているんですか?
是枝:収入を確保するためだけの仕事はつらいですよね。お互いにやりたいことがある程度できていることでバランスがとれるんじゃないかなと。
一番いいのは仕事でやりたいこともできていて収入確保もできているという状態だと思います。
坪谷:私の場合、18歳のときにお互いやりたいことをやっていこうと決めました。妻のやりたいことは主婦として子どもを育てて家事をすることですし、私も今やりたいことしかしていないです。
▲進行をする愛宕さん
愛宕:やりたいことをやるために転職・起業をすると、その直後は忙しいしお金がなくて、不安を感じる部分もあると思っていて。嫁ブロックや親ブロックが入ることも多いと思うんですが、解決方法とかありますか?
金沢:自分の場合、妻の理解を得るのに半年かかりました。妻がリスクを嫌う人ということがわかっていたので、心配させないために本業の収入だけでは下がるけど副業などを始めて合わせればキープできるということをとうとうと説きましたね(笑)あとは、年齢と給料をグラフで提示して、最初は不安定だけど将来は安泰になるということを説明しました。
様々な人が居心地よく働くには?
最後に設けられた質疑応答では、参加者からこんな質問が。
参加者:独身という立場で働いていると、家庭やお子さまがいらっしゃる方の家庭の事情が優先されやすいと感じることが多いです。例えば、子どもの事情を理由には帰りやすいけど、独身の人はプライベートな理由で帰りにくい。どうしたらそのあたりでうまく共存できるようになるのでしょうか?
是枝:中途半端な働き方改革をしているところは、しわよせが独身の方に起きてしまうので、誰でも働き方が選べるようなステージにする必要があると思います。
個人でできることとしたら、プライベートの時間をしっかり確保したいということ、そしてそれによって会社にどういうメリットがあるか発信していくのがいいかと。
▲参加者の質問に答える是枝さん
愛宕:今弊社では家族持ち、単身赴任や20〜30代と様々なステージや年齢のメンバーが働いています。
様々な価値観を持っている人や働き方をしたい人が多く集まっているほど各人の疎外感が減ると思っています。
なのでさっきの話だと、家族持ちばかりがいる会社の場合だと、独身の方が居心地が悪くなりがちだとなってしまうと思うので、会社もなるべく色々な人を受け入れた方がいいというのはあるかもしれませんね。
編集後記
結婚し、子どもを育てることはもちろん幸せなこと。とはいえ、多少犠牲にすること、そしてうまくいかないことが多くなるということももちろんあります。
最初に是枝さんがあげていたイレギュラーなことが起きた場合や、参加者からの質問であった家庭持ちの方が優遇されるがゆえに生まれる独身の方の居心地の悪さなど、個人で解決することは難しい問題もまだまだ山積みです。
ですが、5人の話から自分がどのような家庭を持ちたいか、これから何をしたいかをはっきり持っておくこと、そしてきちんと企業、夫婦間で共有することで、お互いに居心地よく働けることができることがわかりました。きちんとそれらに向き合い続けることで、関係性がぴたっとはまるところを見つけることができるのではと思います。